尚子のうまいもの紀行

「ホテルの朝ごはん 」

旅先では朝ごはんも楽しみのひとつ。香港や韓国では宿泊ホテルの朝食は1回だけにして後は外へ飛び出します。なぜなら、街の中においしいお粥があるから。事前にリサーチをしておいたお粥屋で、アワビやカボチャ、あずき、黒胡麻などの熱々のお粥を体に入れると元気が湧き出てくる気がするのです。中国では朝の散歩で見つけておいた道路脇の屋台へ行くことも。蒸し器からあがる湯気が旨さを伝え、足を止めさせるのです。
 物足りない朝ごはんの代表はパリのホテル。クロワッサンとコーヒーのみというのが一般的で、チーズやジュースなどが並ぶところもありますがなにか淋しい気がします。朝からそう沢山食べられるわけではないにしても旅先では、彩り良くバラエティに富んだ料理を目にすると豊な気持ちになるものです。

 豊な気持ちといえばベトナムのホテルの朝ごはん。どのホテルも結構朝食には気を配っているようです。ベトナム、フランス、中国をうまく取り混ぜながらバランスの良いメニューで楽しませてくれます。フルーツの種類が多いのもベトナムならでは。
  10数年前、珍しい果物のヴースワを初めて食べたのもホーチミンのホテル。ヴースワは、見た目は小振りの青リンゴのようなベトナム南部のフルーツで、2月から4月が旬。硬い果肉は両手で優しく揉むとやわらかくなり甘さが増します。「だからベトナムの男性はおっぱいフルーツと呼んでいるんですよ」と恥かしそうにベトナム人の若い女性トゥーイさんが教えてくれました。食べ方はよく揉んでやわらかくなったら上のほうをナイフで薄く切り、スプーンですくいます。クリーミーで甘い果肉は南国の味。この時季のホーチミンでの楽しみのひとつになっています。
  特に、マジェスティックホテルの朝のレストランはカラフルなフルーツが山積み。中でも濃いピンク色をしたタンロンは南国にいることを実感させてくれます。タンロンはサボテンの一種で真っ白な果肉に黒胡麻のような粒が点々と入っていて、キウイから酸味を取ったような味と舌触り。クセがないのでいくらでも食べられます。市場などで手に入れた時は半分にカットしてスプーンで食べるといいでしょう。食べやすく、手も汚れないのでホテルの部屋や車の中で食べるのにも適しています。

  ベトナムの朝ごはんといえばフォー(米粉うどん)。麺の国ベトナムではホテルでも勿論数種類の麺が用意されています。鶏肉のフォーであったり牛肉のフォーであったり、汁ビ-フンやイエローヌードルであったり。たいていのホテルでは2種類ほどが日替わりで登場。屋台のようなコーナーで、注文を受けてから麺をお湯につけ具をのせてスープを張ってくれます。唐辛子とライムは好みで。酸味を効かせた朝のフォーはお腹に優しく馴染んでくれます。日本人が麺類を食べる時は音をたてて吸い込むようにしますがベトナムの人はレンゲに一口づつのせ、静かに口に運びます。郷に入れば郷に従え、麺をお上品に食べるのも旅の面白さでしょう。
  フエの麺といえばブンボーフエ。牛肉がたっぷり入った汁ビーフンで、スープが赤く辛い。地元の人はこれに唐辛子味噌を加え、さらに辛くして食べています。この麺がフエのホテルの朝食にも出できます。フランスの香り漂う優雅なサイゴンモリンホテルでは熱帯の植物が生茂る美しい中庭が朝ごはんのレストラン。木陰のテーブルの上にブンボーフエとパイナップルやタンロンなどのフルーツ、コーヒーなどを並べて朝からゆったりと時を過ごす…贅沢な時間がゆっくりと流れます。

  器の美しさではニャチャンのアナマンダラ・リゾートも印象に残っています。フォーが八角形のセラドングリーンの器で出てくるのです。リゾートの朝の爽やかな雰囲気にぴったり。この器は後に焼物の里バッチャンで探し求めて持ち帰り、今わが家で大活躍してくれています。
 ベトナムといえばフランスパン。勿論どのホテルでも朝はフランスパンとベトナムコーヒーが用意されています。フランスの置き土産といわれるフランスパンはフランスよりもおいしいと評価する人がいるほどで、ホテルの朝の楽しみのひとつでもあります。ベトナムの味が取り揃えられたホテルの朝食は「うまいベトナム」が体験でる入り口といえるでしょう。


サイゴン・モリンホテルの中庭にて
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