ベトナムうまいもの紀行

「旧正月・テトのたべもの 」

べトナムの今年のテト(旧正月)は1月29日。大晦日にあたる28日の午後、ホーチミンに住むベトナムの友人に電話を入れてみました。 「テトには母や兄弟、甥たちがやって来るので、今掃除をしているところ。こちらではお正月に掃除をするとお金が出て行って1年間、お金に不自由すると言われています。だから今日中に済ませなければ」と忙しそう。ホコリやゴミはお金にたとえ、新年早々掃きだすことは縁起が悪いということだそうです。日本では元日から掃除をすると1年中働かなければならなくなると言われてきました。同じ言い伝えでも表現が違うところが面白いところです。  
 ベトナムでも新年の準備は昔ほど手をかけなくなってきているようです。友人によると、スーパーマーケットの存在は主婦の大きな味方。電話をした少し前にスーパーに足りない物を買いに行ったところ殆どの品が売り切れていたそうです。 「この1週間はレジに長い列ができ、30分も待たされたのよ」と年末の活気を伝えてくれました。7日間も休みなのでお米から醤油、ヌクマムまで買占められるのです。 「まるで戦争が始まる前のよう」と友人。今年は特に公務員のボーナスがよく例年に増して商品の売れ行きがのびているということです。
 ホーチミン市のメインストリートであるグエン・フエ通りでは花まつりも開催され、全国から色とりどりの花々が集まって来ます。この花の展示会は建築家などプロによるデザインで技術的にも優れているものが多いとか。市民がお正月用に買うのはべンタイン市場の周辺の花市場。仏壇のお供え用に黄色の菊の花、贈答用に金柑の鉢植えなどが売られています。お供えといえば欠かせないのがスイカとザボン。 「昔はお正月の頃には果物といえばスイカ。だから今でもスイカはお正月には必ずお供えするのです。ザボンは大きくて形がきれいでしょ。どちらも長持ちします。仏壇に供えておいて後で食べても味が変わらないからです」。  
お供えはこのほか、パイナップルやオレンジなどをフラワーアレンジのように形よく積み上げます。主婦の腕の見せ所でもあるようです。  
 ベトナムでは殆どの店は大晦日の午後から新年の6日まではお休み。5日は縁起が悪いとされため殆どの店は6日からで、開いているのはホテルだけ。何といってもテトはベトナム最大の伝統行事。伝統料理が食卓を彩ります。  

 その代表が、もち米と緑豆、豚肉をバナナの葉でしっかりと巻いて茹で上げたちまきバインチュン。北と中部は四角、南部は細長いボンレスハムのような形で作られます。塩と香草での味付けのほか、玉ネギを入れるところもあるそう。砂糖を加えて甘くするちまきも。中部出身の友人によると、もち米と黒砂糖でお餅を作り、ゴマをまぶすのだといいます。ところ変われば、ということでしょう。  
 昨年の大阪でのテトパーティでもベトナムから直送の四角い、どっしりと大きなバインチュンが登場。お正月ムードを盛り上げていました。  もう一品、テトに欠かせないのが豚肉とゆで卵の煮物ティットコーチュン。砂糖を焦がしたキャラメルで煮るのが特徴で、細長く切ってライスペーパーに包んだり、ご飯にのせて食べるのです。この料理は日持ちがするのと、大量に作ることができるので、これがあれば多くのお客に即、対応が可能。日本のお煮しめにあたる料理でしょう。ライスペーパーに巻くときは甘酢っぱく漬けたもやしとレタスやきうりなどの野菜が欠かせません。 「ベトナムの食事は、酸っぱいもの、渋いもの、辛いものを合わせます。人生と同じですよ」と言った友人の言葉が想い出されます。  大晦日に食卓を飾るのが、赤い花をくわえた鶏の姿煮。まるでカルメンのようなこの料理にハノイで初めて出会ったときの驚きは今も忘れられません。  
 昔はどこの家でも主婦手作りのテト料理も、今は専門店にオーダーをする家が多くなっているそうです。バインチュンは材料を揃えるのも大変なうえ、大きな鍋で一晩煮なければならないので作る人は年々少なくなっていると言います。専門店では大きいのが約1000円、小さいものでも約500円とベトナムでは結構なお値段です。それでも作る手間を考えれば納得できるのでしょう。
 日本のおせち料理も同じ。豊かになると、手塩にかけることが少なくなるのは仕方がないということでしょうか。